東京地方裁判所 平成4年(ワ)3320号 判決 1993年6月08日
原告
野島淳一
原告
柴田武也
原告
梅原三花子
原告
宇佐見章
原告
加藤実智雄
原告
三好良三
原告
植野克志
原告
徳田和広
原告
中村稔
右九名訴訟代理人弁護士
高橋達朗
被告
株式会社シー・エー・ビジョン
右代表者代表取締役
森英昭
右訴訟代理人弁護士
寿原孝満
主文
被告は、原告野島に対し金一一八万〇八八九円、原告柴田に対し金九六万七九四六円、原告梅原に対し金七三万九一六〇円、原告宇佐見に対し金三九万〇〇七四円、原告加藤に対し金三四万一八五八円、原告三好に対し金三二万九七二二円、原告植野に対し金三二万八五三三円、原告徳田に対し金五四万一七三二円、原告中村に対し金二四万三八二七円及びこれらに対する平成四年三月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を各支払え。
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
理由
第一請求
別紙請求債権目録記載のとおり。
第二事案の概要
本件は、テレビ及びラジオ番組の企画と製作、ピーアール映画のコマーシャルフィルムの企画と製作等を業とする被告会社の従業員(但し、被告会社は、原告野島、原告徳田については役員であって従業員ではなかったと争っている。)であった原告らが被告会社によって即時解雇されたと主張して、解雇予告手当、未払賃金(平成三年一一月二一日から同年一二月一日までの分)、賞与(基本給の一・五か月分相当額)、退職金(但し、原告野島、原告柴田、原告梅原の三名についてのみ)の各請求をなした事案である。
第三争点及びこれに対する判断
一 原告らと被告との雇用契約関係
原告柴田は昭和六一年一一月五日、原告梅原は同六二年二月二〇日、原告宇佐見は同年一二月二〇日、原告加藤は同六三年四月二五日、原告三好は平成元年三月一〇日、原告植野は同二年四月二日、原告中村は同三年四月一日、いずれも被告との間で雇用契約を締結し、撮影技術部門の従業員として勤務していた(争いがない。)。
原告野島は、昭和六二年九月一六日、原告徳田は、平成二年一月三〇日、いずれも被告との間で雇用契約を締結し撮影技術部門の従業員として勤務していた旨主張し、これに対し被告は、同原告らはいずれも被告会社の取締役として就任していたものであって、雇用契約関係にはなかった旨争っている。
証拠(<証拠・人証略>)によると、次の事実を認めることができる。
原告野島は、昭和六二年九月一六日、原告徳田は、平成二年一月三〇日ころ、いずれも被告会社との間で雇用契約を締結し、撮影技術部門の従業員として勤務していたところ、被告会社代表者森英昭(以下「森社長」という。)は原告野島に対し、昭和六三年七月ころ、同原告の媒酌人であったこともあって、同原告の今後の生活のことを考えて被告会社の役員に就任することの要請をなし、同原告はこれを承諾してそのころ被告会社の取締役に就任した。他方、森社長は、平成二年九月ころ、原告徳田に対しても、被告会社の取締役として就任することの要請をなし、同原告は、そのころこれを承諾して同月二八日取締役に就任(但し、就任登記は同年一二月三日)した。このように同原告らは、それぞれ取締役に就任はしたものの、被告会社は森社長のいわゆるワンマン会社であって、同原告らは会社経営に直接参画することもなく、また、同原告らの従事していた業務内容も取締役就任前後によって変化することもなかった。なお、被告会社は、平成三年一二月初めころ、同原告らを含む原告ら全員に対し、雇用保険被保険者離職票を送付しているが、これにはいずれも事業縮小のため解雇した旨記載されており、また、被告会社は、同原告らをいずれも雇用保険の被保険者として取り扱っている。
右認定事実によると、原告野島、原告徳田はいずれも被告会社の取締役ではあったものの、これに就任する以前は従業員として雇用されたものであって、取締役就任前後によって従事していた業務内容に変化もなく、会社経営に直接参画してもいなかったというのであり、そして、被告会社は、同原告らを雇用保険の被保険者として取り扱い、雇用保険被保険者離職票にも事業縮小のため解雇した旨記載しているというのである。そして、同原告らが取締役に就任した際、従前の雇用契約が終了したことを認める証拠もない。以上の諸点に鑑みると、同原告らは、いずれも被告会社の従業員でありかつ、取締役であったもの、すなわち、従業員取締役であったということができる。
二 雇用契約の終了は被告会社の解雇によるものなのか、原告らの任意退職によるものなのか。
原告らは、平成三年一二月一日、被告会社によって即時解雇された旨主張し、被告会社は、これを否認し、原告らはいずれも任意退職した旨争っている。証拠(<証拠・人証略>)によると、次の事実を認めることができる。
被告会社は、平成元年以降技術部門の売り上げが伸びず年間約三〇〇〇万円以上の赤字を計上する状況にあって、森社長がこれを私財によって補填してきており、平成三年度も同様の状況にあった。このようなことから森社長は、同年一一月二六日ころ、原告野島、原告徳田と今後の経営方針について協議し、この席上、原告徳田は、製作部門と技術部門とを分離し独立採算で経営することの提案をしたが、方針の定まらないままで協議は終了した。ところが、この協議の数十分後、総務課の経理担当の石塚から原告徳田に対し、森社長が技術部門の従業員は全員馘だといっている旨が伝えられ、原告徳田はこのことを原告らに伝えた。そして、同年一二月初めころ、被告会社から原告ら全員に対し、雇用保険被保険者離職票が突然送付され、これらのいずれにも「離職年月日平成三年一一月二〇日、離職理由解雇(事業縮小のため、予告期間有)」と記載されていた。そこで、原告らは、同年一二月一日、被告会社に出勤してみたところ、前記石塚から技術部門は昨日で閉鎖したので、部屋を閉める旨伝えられ、事情を聞くため森社長と面談しようとしたが、所在が不明で面談をすることができなかった。そこで、原告らは、同月三日まで被告会社に出社して森社長と面談しようとしたが、同様に面談をすることができなかった。
森社長は、右認定の一一月二六日ころの原告野島、原告徳田との協議の席上、原告徳田は被告会社の信用がないからやっていけない、これ以上会社にいても売り上げを伸ばすことはできないから原告らで会社を設立してやっていきたい旨述べたので、これを了承し、そこで原告らは任意退職することとなった旨供述するが、原告らには当時新たに会社を設立して事業を展開するだけの資金力はなかった(<人証略>)、こと等から、森社長の右供述はにわかには信用することができない。
右認定事実によると、被告会社は原告らに対し、同年一二月初めころ、雇用保険被保険者離職票を送付したことによって解雇の意思を表示し、そのころ、原告らが出勤しても技術部門を閉鎖して原告らの労務提供を拒否していたのであるから、早くとも同月一日、原告らに対し、即時解雇の意思表示をしたものといえる。
三 未払賃金請求について
被告会社の賃金は前月二一日から起算し、当月二〇日に締め切って計算し当月二五日に支給することとなっている(<証拠略>)。
原告らは、いずれも平成三年一一月分まで(同年一〇月二一日から同年一一月二〇日までの分)の賃金の支給を受けたが、労務提供をした同年一一月二一日から同年一二月一日までの分については支給を受けておらず、この未払額は、原告らの平均賃金日額はそれぞれ原告らの主張するとおりである(<証拠略>)から、原告らの主張する金額となる。
四 賞与請求について
被告会社は、賞与につき、賃金規程一七条で「会社は毎年七月及び一二月の賞与支給日に在籍する従業員に対し、会社の業績、従業員の勤務成績等を勘案して賞与を支給する。但し、営業成績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合には、支給日を変更し、又は支給しないことがある。」と定めている(<証拠略>)。これを受けて被告会社では、これまで従業員に対する賞与については森社長と従業委員との交渉によって業績等を考慮して支給してきており、その支給基準は明確とはなっていなかった。
右認定事実によると、被告会社の従業員に対する賞与の支給は、この支給日に在籍する従業員に対し支給するというものであり、しかも、この支給額については被告会社の業績等の変動要素を考慮したうえで被告会社が決定していたのであり、また、業績等によっては支給しないこともあるというのである。
してみると、原告らについては平成三年一二月一日をもって雇用契約が既に終了していたのであるから、賞与支給日に在籍する従業員との要件に欠けるのみならず、具体的な支給額については被告会社の裁量による決定のあったことを認めるに足りる証拠もないのであるから、原告らのこの点に関する請求は理由がない。
五 解雇予告手当について
被告会社が原告らに対し、いずれも平成三年一二月一日、即時解雇の意思表示をしたことは前記認定したとおりであるから、被告会社は原告らに対し、労働基準法二〇条一項本文に従い、それぞれ別紙請求債権目録記載の解雇予告手当を支払う義務がある。
六 退職金請求について
被告会社の退職金規程には、被告会社は従業員を止むを得ない業務上の都合により解雇した場合には、当該従業員に対し退職時における基本給の月額に勤務年数に応じて別表の支給基準率のA欄に定める率を乗じて算出した退職金を支給すると定めている(<証拠略>)。
そこで、これを原告野島、原告柴田、原告梅原について当てはめると、原告野島は、勤続年数は四年であるから支給基準率は二となり、基本給は三五万円であるから、退職金の額は七〇万円、原告柴田は、勤続年数は五年であるから支給基準率は三となり、基本給は一九万円であるから、退職金の額は五七万円、原告梅原は、勤続年数は四年であるから支給基準率は二となり、基本給は一九万円であるから、退職金の額は三八万円となる。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 林豊)
<別紙> 請求債権目録
一 原告野島関係 一七〇万五八八九円
(内訳)
<1> 未払賃金 一二万九〇一九円(平均賃金日額一万一七二九円)
<2> 賞与 五二万五〇〇〇円
<3> 解雇予告手当 三五万一八七〇円
<4> 退職金 七〇万円(勤続年数四年、支給基準率二、基本給三五万円)
二 原告柴田関係 一二五万二九四六円
(内訳)
<1> 未払賃金 一〇万六七六六円(平均賃金日額九七〇六円)
<2> 賞与 二八万五〇〇〇円
<3> 解雇予告手当 二九万一一八〇円
<4> 退職金 五七万円(勤続年数五年、支給基準率三、基本給一九万円)
三 原告梅原関係 一〇二万四一六〇円
(内訳)
<1> 未払賃金 九万六三六〇円(平均賃金日額八七六〇円)
<2> 賞与 二八万五〇〇〇円
<3> 解雇予告手当 二六万二八〇〇円
<4> 退職金 三八万円(勤続年数四年、支給基準率二、基本給一九万円)
四 原告宇佐見関係 六八万二五七四円
(内訳)
<1> 未払賃金 一〇万四六五四円(平均賃金日額九五一四円)
<2> 賞与 二九万二五〇〇円
<3> 解雇予告手当 二八万五四二〇円
五 原告加藤関係 五八万九三五八円
(内訳)
<1> 未払賃金 九万一七一八円(平均賃金日額八三三八円)
<2> 賞与 二四万七五〇〇円
<3> 解雇予告手当 二五万〇一四〇円
六 原告三好関係 五八万四七二二円(平均賃金日額八〇四二円)
<1> 未払賃金 八万八四六二円
<2> 賞与 二五万五〇〇〇円
<3> 解雇予告手当 二四万一二六〇円
七 原告植野関係 五九万八五三三円
(内訳)
<1> 未払賃金 八万八一四三円(平均賃金日額八〇一三円)
<2> 賞与 二七万円
<3> 解雇予告手当 二四万〇三九〇円
八 原告徳田関係 一三六万一七三二円
(内訳)
<1> 未払賃金 一七万二一七二円(平均賃金日額一万五六五二円)
<2> 賞与 七二万円
<3> 解雇予告手当 四六万九五六〇円
九 原告中村関係 四四万六三二七円
(内訳)
<1> 未払賃金 六万五四一七円(平均賃金日額五九四七円)
<2> 賞与 二〇万二五〇〇円
<3> 解雇予告手当 一七万八四一〇円